『ご主人さまにあ』 by ゆにっとちーず

ご主人さまにあ

陰陽倶楽部のTwitterアカウントを立ち上げて関連フォロー先を少しずつ登録していた矢先に、タイムラインに偶然流れてきたのが本作の宣伝情報でした。

「馬鹿な私が、許しちゃう前に。」

この意味深なコピーに惹き付けられ、dlsiteの本作作品内容の紹介文を読むに付け、「コレは絶対にスルー出来んぞ」というビビッとした感覚が走りました。

ただ、体験版のスタート時点では少し「自分の嗜好的にどうかな?」という不安も抱きます。
僕は元来、普通の人が徐々に異常な世界に(不可抗力的に)巻き込まれていくようなお話が好きなのですが、この主人公のみつ希ちゃん、物語開始時点で既に相当にヤヴァい。キャッチイメージ↑の表情からも伝わってくると思いますが、「もうコレ、すっかり出来上がっちゃってるじゃん」ていう…。

しかしながら体験版をプレイしていく内に、どうやらこの物語は「如何にして彼女がそこに至ったか」を過去に向かって追いかけていくものであると分かります。
何よりみつ希のエロゲヒロインには珍しい、男を冷静に醒めた目で値踏みする蠱惑的でミステリアスな人物造形に惹かれていきました。

Hシーンの描写ひとつ取っても
「愉しげな指が、充実した乳首をしごき上げて遊ぶ。」
とか、行為の最中に
「承認欲求からくるマゾさどころか、他人を物差しとしてしか見ない私」
って自己分析してのけるこのヒロイン、何だこの中二病オッサンの琴線を擽り回すようなファム・ファタール臭は!

こんな文体、そんじょそこらの抜きゲーじゃお目にかかれないですよ。人によっては鼻白んでエロゲとしては拒絶反応を起こすかもしれない、ギリギリのところに立ってる危うさ。

この時点では僕、作品の背景も作者やサークルに関する情報も一切持っておりませんでしたが、さすがにここまで来ると「あ~これ作者も女性なんだ」と気付きます。
みつ希の心象描写は、男である僕にはブラックボックスの中を覗き込んでいるような不気味な魅惑を覚えさせるものでした。
こういう女、絶対男にゃ書けないと思う。

この作者、山野さんの描かれるエロスって、恋愛してる最中に時折相手の女の子が訳の分からない妖怪みたいに思えてゾッとさせられる瞬間、そういう感じに通じるものがありますね。背筋がゾクゾクするような感覚。
ぶっちゃけエロゲですから最初は抜く気満々で取っ掛かったんですが、体験版終えた頃にはちょっと別の興味が湧いてきてました。
それはもっとエゲツナクてオドロオドロしい、窃視症的な男の変態欲求。自分には見えない世界を眺めているメンヘラな女の子の中の中まで覗き見してやりたいぜゲッヘッヘ!

そしてその結果…………僕はその浅ましい窃視欲に対して、自分なりのオトシマエを付けなきゃならない十字架を背負わされた想いで、現在この駄文を書き綴っている訳であります…orz

だって、まさしくそういう屑みたいな自分を象徴するような登場人物が出てきて、みつ希に思いっきり蔑まれるんだもん。
堪えましたあのシーンはホントに。だって僕完全にアソコ、あの男に感情移入してましたから。エロゲの定型レイプシーンに沿って、泣き喘ぐみつ希ちゃんを期待してゲッヘッヘな気分全開でシーンに突入してったら、抜くどころじゃないシュンと縮こまってしまった。
その罵倒さえも飲み込んで行為を貫徹した挙句、その後一定期間みつ希と関わり続けたらしい物語中の男ほどの度胸もない小物だってことを、徹底的に思い知らされちゃった瞬間でした。

…そして迎える哀しい結末。いやはや何とも、辛いお話です。「鬱SM」と銘打たれているとおり、救いはありません。
決定的なネタバレになるので書けませんけど、みつ希の最後のセックスシーンは性器の交合というより、あれは最早………
しかもそれが男女双方にとって、これ以外に行き着く場所が無かった絶望的な愛情表現だからもう切なくて涙腺が始末に負えない…(Pдq。)。。。

そんなこんなで…ストレートな抜きゲー、男の性衝動の捌け口として戯画化された女性像をお求めの方には正直キツイかもしれません。しかし僕個人としては、同人エロゲってこういう作品の場にもなれるんだ、という、もう一周グルッと回ったような感銘を得られました。
女性の心の深淵を覗いて鳥肌立つように心を震わせてみたい、心理的窃視願望をお持ちの男性諸氏は是非プレイしてみてください。ハマればなかなかに鬱な勃起がお楽しみいただけるかと。。。
(一方本作を女性がプレイした場合はどんな感想になるのかなぁ…というのは僕には想像が及びもつかないので、もしプレイされた女性ゲーマーさん居られたらご意見伺ってみたいですね。こだわり過ぎかもしれませんが、そんなふうに男と女の視座の違いというものを、殊更意識させられた作品でした。)


以下は、辛口な感想も少し。

どうやらグラフィックまで作者の山野さんがお一人で担当されるようになったのは本作からみたいですね。好き嫌いで言うなら、情念みたいなものが浮かび上がってくる好い絵だな~、と感じましたが、技巧的な側面から量ればまだ進歩余地も大きいことは確かでしょう。
Hシーンの大半の四隅が黒フェードしてるのですが、ちょっとそこは演出という形で逃げてしまったのかなぁ、とも感じてしまいました。

とはいえ声優=赤司弓妃さんの熱演で耳からの刺激だけでもビンビンにキますし、グラフィックの巧拙はそれほどクリティカルな問題じゃないかもしれません。
それよりも僕が本作に感じたのは、同人だからこそやれる突き抜けた表現の発露と、それと表裏一体になったエロゲの商業性の両立の難しさ、ということでした。

底意地悪い書き方になってしまいますが、腐女子な世界観の中心で汚れきっているがゆえに聖女的なみつ希に対して、その周りに侍る男共は、浅見も由貴もそして「ご主人さま」ですらも、畢竟彼女の引き立て役にしかなれません。
中でも浅見の人物造形には、率直に書くと白馬の王子的な匂いすら感じました。エンディングを考えれば、彼がああいった人物像になったのも物語の悲劇性にとって必要だったことは理解できます。でも僕が本作に唯一引っかかってしまった点は、彼のみつ希に対する執着がなぜここまで強く激しく純化されていったのか、という浅見の熱の原点がもう一つ伝わってこなかった所にあります。
また話がここに戻ってしまいますが、ひょっとしたらこの部分は、女性である作者と、男としての僕の感覚の齟齬が生じている部分かもしれません。何ていうか、僕には男の女に対する愛情とか憧憬って、もっと肉体的で即物的な印象がするんです。会ったことがないが故に想いが純化されればされるほど、実際にそれが満たされる瞬間には汗と精液の匂いがえげつなく沁み出てしまう我が身の生臭さにメゲるか開き直るしかないのが男の性、とでも言いますか。その観点からするとエンドロール後に一人称で登場する人物は見事なまでに男で、一方みつ希の相手役の中心に位置しなければならなかったはずの浅見が、(あの末路を含めて)本作の中では一番男になれてない印象を受けてしまい、彼に感情移入することでみつ希に欲情することは僕には難しかったです。
(だからこそあの端役に過ぎない埠頭の男の登場に一気に気持ちが雪崩れ込んでいったのですが、その挙句あの返り討ち………いや、アレこそが究極の鬱勃起なのかな………w)

エロゲのコマーシャル性という話に戻すと………
ビジネスライクな言い方になりますが、購買層を考えるとエロゲって男性サイドのある意味幼稚な性=対置する女性性を屠り支配したいという現実には満たすことの難しい欲求に寄り添っていくことを拒絶してしまうと、商業的には難しくなるように思えます。
でも、みつ希は物語の最後まで決して媚びません。だからこそ彼女は悲劇的で悲惨で痛ましく、同時に美しい訳ですが、僕みたいな下種な小物の男は、こうした崇高さすら感じさせる女性を前にすると萎縮するしかないようにも思えて。
だから本作は大衆娯楽的なエロゲとしては難しいのかもしれないなぁ、というジレンマのようなものも感じてしまったのです。ただその一方で最早即物的な抜きだけじゃ満足できない、観念的な情欲の刺激を求める一層変態紳士なオトコドモには、コアなファンの付く作品=作風なのかな~とも思いました。
(そんなわけで僕のHDDの中には既にパコられ『パコられ』も入ってたりなんかして…)


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